【春日大社✕采女神社の隠された謎】歴史小説を片手に歩く奈良の旅

関西の歴史的建造物
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奈良を代表する春日大社。
朱塗りの社殿や参道の石灯籠が美しく、何度訪れても心惹かれる場所です。

あまりにも有名な神社のため、観光で訪れた人も多いでしょう。
でも、「春日大社はもう見尽くしたかも?」と思っていませんか?

そんな方にこそ試してほしいのが、小説を片手に歩く旅。

物語を通じて伝説や歴史を知ることで、今まで気づかなかった見どころが浮かび上がり、馴染みの風景がまったく違って見えてくるかもしれません。

今回ご紹介するのは、小説『采女の怨霊』 
この小説は、春日大社の境外末社である「采女神社」から始まる歴史ミステリーです。

・猿沢池に身を投げた采女を祀る神社が、なぜ池に背を向けているのか?
・「春日大社は本当に藤原氏を祀るためだけの神社なんだろうか?」
 — 登場人物が投げかける問いの意味とは?
・壬申の乱、皇位継承の闇、平城京の怨霊封じ—春日大社の裏の役割や「采女」との関係は?

これらの日本古代史の謎が次々と解き明かされていきます。

私も春日大社には何度も訪れていますが、この小説を読んですぐに行きました!
すると景色の見え方が変わり、改めて春日大社の奥深い魅力に気づける旅になりました。

もちろん、初めて訪れる人にもおすすめの楽しみ方です。
次の奈良旅行の参考に、ぜひ読んでみてくださいね。

采女(うねめ)とは昔の女性の職業。女官のことです。

小説「采女の怨霊」とは歴史ミステリーでもあり現代にも通じる社会派ミステリーでもある

采女の怨霊表紙

あらすじ

藤原氏が怖れた〈大怨霊〉の正体とは。
奈良・猿沢池の畔に鎮座する「采女神社」は池に背を向け、平素は固く門を閉ざしている。はるか昔、池に入水した采女の霊を慰める祭の時だけ、門が開かれるというのだが……。なぜ下級女官の鎮魂が連綿と続いているのか。謎は春日大社に及び、民俗学者・小余綾俊輔の推理が壬申の乱と皇位継承の闇、平城京の〈鬼封じ〉を解き明かしていく。古代史の鍵を握る采女とは何者か。歴史真相ミステリー。

この小説の魅力的なポイント
・物語と同じように史跡めぐりができるので歴史好きにはたまらない。
・歴史、民俗学、宗教、文学などの幅広い知識を総動員して古代史の謎に挑んでいる。
・春日大社、壬申の乱、皇位継承の闇、平城京の怨霊封じなど、古代史の多様な要素が絡み合い、最後に点と点が繋がって、全体像が浮かび上がる展開に惹きつけられる。

「采女の怨霊」を読んだ感想

読む前は、現代で起こった事件に古代史が絡んでくるミステリーだと思っていました。
しかし…まったく事件は起こりませんでした ・・・

物語は、編集者の女性と研究者の男性が奈良や滋賀の史跡を巡り、歴史の謎を調査していくというもの。
最後に2人の考察を聞きながら、歴史や民俗学に精通した助教授がまるで安楽椅子探偵のように謎を解き明かしていく構成です。

事件もなく、調査の過程もじっくり描かれるため、スピード感に欠けると感じる人もいるようです。
また、いろんな歴史研究家の資料を抜粋しての説明や、歴史上の人物が次々出てくるので、古代史を知らない人には少ししんどいかも。

悩む女性

確かに古代の人達の関係性、複雑すぎ・・・!

でも私は、現代の事件が入り込んで話が脱線するよりも、純粋な歴史ミステリーとして楽しめる点が魅力だと思いました。歴史上の人物も超有名人が多いので、大まかな関係性を知っていれば楽しめるでしょう。何なら、私のように「マンガで読んで知っているよ」ぐらいの人のほうが楽しめるかもしれません。

采女神社の謎から始まり、壬申の乱や皇位継承の闇など、隠された古代史が次々と明かされていく展開は見どころのひとつ。
また、2人が奈良や滋賀の史跡を巡る描写がリアルで、「私も行ってみたい!」と感じました。

そして最後には、采女の正体が明らかに。
純粋な謎解きとして楽しむのはもちろん、著者独自の解釈とご自身の考察を比べながら読むのも面白いのではないでしょうか。

采女神社と猿沢池の伝説が物語の始まり

重要なキーワードは「采女」

壬申の乱や皇位継承の闇など、物語の中では古代史の謎がたくさん出てきます。
そのすべての謎に共通するワードが「采女」。

では、その采女を祀る神社、采女神社とはどんな神社なのでしょう。
この神社から物語は始まります。

猿沢池の伝説、それは奈良時代の悲恋物語

奈良時代、天皇に仕える美しい采女がいました。
天皇は彼女を寵愛しますが、すぐに采女のことを忘れてしまいます。
天皇の心が離れたことを知った采女は深く悲しみ、ついには猿沢池へと身を投げてしまいました。
この悲劇を知った天皇は、彼女の霊を慰めるために采女神社を建立したと伝えられています。

池に背を向ける采女神社

采女神社は、猿沢池の西北畔に位置する春日大社の境外末社です。
この神社の最も特徴的な点は、社殿の向きです。
通常、神社の社殿は鳥居に向かって建てられます。
しかし、采女神社の社殿は、猿沢池に背を向けているのです。

采女神社と鳥居

これは、「入水した池を見るのは忍びない」と、一夜のうちに社殿が背を向けた
――そんな伝説が残っています。

600年の歴史をもつ采女祭

采女祭の石碑

采女神社では、毎年中秋の名月の頃に「采女祭」が行われます。
この例祭では、春日大社の宮司をはじめとする神職や巫女が神事を執り行い、夜には満月の下、猿沢池に管弦船が浮かべられます。

この祭りは、天皇の寵愛を失い、猿沢池に身を投げた采女の霊を慰めるために続けられてきました。

采女祭に違和感を感じた主人公

主人公の女性編集者は、この盛大に行われる采女祭と采女神社を訪れた際、ある違和感を感じます。
あなたは、この伝説を読んでどう感じましたか?

猿沢池

采女神社横のスターバックスで飲み物を買って、この景色を見ながら思考にふけるのもいいですよ?

藤原氏の氏神を祀る春日大社、その本当の役割は?

「春日大社は本当に藤原氏を祀るためだけの神社なんだろうか?」

物語の冒頭で出てくるこのセリフに、私は早くもワクワクしてしまいました。

そして、もう一つの印象的なセリフ。

「興福寺も春日大社も談山神社も、全て美しすぎるのだ。」

この言葉に、ゾクッとしたのを覚えています。

興福寺も、春日大社も、談山神社も藤原氏と深い関わりを持つ場所です。

日本史を語るうえで絶対に外せない藤原氏。
その歴史は、権謀術数に満ちた策略と政争の連続でした。
しかし、これらの神社や寺には、そうした「ドロドロとしたもの」がまったく感じられないと。

むしろ、どこまでも優美で、洗練されていて、ただただ「美しい」。

もし、私たちが目にしているものが「表の顔」なのだとしたら——
「裏の顔」は、いったいどこに隠されているのでしょう?

見どころ満載!表の顔としての春日大社

春日大社中門

物語の中で、主人公と男性研究者の2人は春日大社を訪れます。
そのコースは、まさに観光ルートといえるもの。

📍 2人の巡ったルート
 二之鳥居・祓戸神社・手水舎
 → 南門・幣殿・舞殿
 → 中門・本殿
 → 御蓋山浮雲峰遙拝所
 → 回廊・藤浪之屋

物語では2人は本殿まで入っていますが、現在は一般の参拝者は立ち入ることができません。

春日大社といえば灯籠!その数、なんと約3000基!

春日大社の灯籠

春日大社といえば、境内に並ぶ約3000基の灯籠が特徴的です。
なかでも、毎年節分と中元(8月)に行われる「万灯籠神事」では、境内のすべての灯籠に火が灯り、幻想的な光景が広がります。

この万灯籠の雰囲気を通年楽しめるのが、「藤浪之屋」
ここでは暗闇の中、無数の灯籠がほのかに灯り、幽玄な世界が再現されています。

灯籠の中には、歴史上の有名人が奉納したものも!
どんな名前があるか、探してみるのも楽しいですね。

朱塗りの社殿と神聖な雰囲気

春日大社の社殿

春日大社の朱塗りの社殿は、重要文化財にも指定されており、その鮮やかな色彩と美しいデザインが訪れる人々を魅了します。
観光客で賑わっているにもかかわらず、どこか神聖な空気が漂うのも春日大社の魅力です。

特に、御蓋山浮雲峰遙拝所(みかさやま うきぐものみね ようはいじょ)は、武甕槌命(たけみかづちのみこと)が白鹿に乗って降り立ったとされる神聖な場所。
ここから御蓋山を遥拝すると、古代の神話の世界に引き込まれるような気持ちになります。

春日大社は、その歴史と神秘性、そして圧倒的な美しさで、訪れる人々に深い感動と安らぎを与えてくれる特別な場所です。

春日大社の裏の歴史?摂社の中でもとくに重要な「若宮」

春日大社の神域には、摂社・末社を合わせて62社もの神社が祀られています。
その中でも特に重要視されているのが「若宮神社」 です。

若宮神社は、春日大社よりずっと後に藤原氏によって建立されました。
春日大社が国家レベルの願いを聞く神社とされるのに対し、
若宮神社は個人の願いを叶える神社とされています。

奈良最大級の祭「若宮おん祭」

若宮おん祭

若宮神社では、毎年12月に「若宮おん祭」 が行われます。
この祭りは1136年に始まり、900年近く一度も途切れることなく執り行われている伝統ある神事です。

祭りの中心的な行事であり、 国の重要無形民俗文化財にも指定されているのが 「御旅所祭」 です。
この儀式では、春日大社の御旅所に若宮様をお迎えし、お供えやさまざまな伝統芸能が奉納されます。

会場には 約9メートル四方の芝舞台が設けられ、ここで芸能が披露されます。
実はこの芝舞台こそが「芝居」の語源になったと言われています。

物語の中での「若宮」の存在

若宮神社

春日大社の数多くの摂社・末社のなかでも 別格の扱いを受ける「若宮神社」。
かつては本殿と若宮が同格とされていたほどです。

そんな若宮神社で行われる 「若宮おん祭」 では、猿楽(能楽)、雅楽、舞楽など、さまざまな神事芸能が奉納されます。とくに猿楽(能楽)は、祭りの中でも大きな役割を果たしています。

そもそも能は怨霊を鎮める「鎮魂」のために発展した芸能です。
そして若宮神社もまた、 非業の死を遂げた人々の霊を慰め、鎮めるために祀られた社という側面を持っています。実際に、全国の「若宮」と名のつく社の多くは怨霊を祀るためのものなのです。

かつて本殿と同格だった春日大社の若宮神社。
怨霊鎮魂のために奉納される能。
いったいどれほどの重要な人物が祀られているのか――。

その答えは物語の最後に明かされます。

小説を片手に旅に出よう!

旅人

「もう見尽くした」と思っていた場所も、小説をガイドにすればまったく違う旅へと生まれ変わります。
歴史の裏側にあるドラマや謎を感じながら巡る、新感覚の神社巡り。
ぜひ 『采女の怨霊』 を読んで春日大社を訪れてみてください!

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